声明・談話

《声明》教育への権利に立脚しない大学等修学支援法を是正し、大学院生を含めた権利としての高等教育無償化を求める

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2019.08.27

全国大学院生協議会

 2019年5月10日、大学等における修学の支援に関する法律(大学等修学支援法)が成立した。そうしたなか7月3日に発表された文部科学省の「Q & A」において、大学院生が大学等修学支援法の支援対象から除外されるということが明確となった。われわれ全国大学院生協議会(全院協)は、これまで大学院生を含めた権利としての高等教育無償化の実現を訴えてきた。すでに大学等修学支援法がその目的からして権利としての高等教育無償化との間に甚だしい懸隔をもち、内容的にもさまざまな問題をはらんでいることは明らかではあった。しかし、今般いよいよ大学院生がその支援対象から除外されるにおよび、これに対して早急な是正を強く要求すべく、ここに全院協としての声明を述べるものである。

1.大学等修学支援法は学生の教育への権利を第一義的な目的としていない

 大学等修学支援法はその目的からして権利としての高等教育無償化との間に甚だしい懸隔をもつ。すなわち「この法律は、真に支援が必要な低所得者世帯の者に対し、……その修学に係る経済的負担を軽減することにより、子どもを安心して生み、育てることができる環境の整備を図り、もって我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することを目的と」している。したがって、大学等修学支援法は学生の教育への権利を第一義的な目的とするものではない。

2.大学等修学支援法は既存の学費減免制度を後退させる可能性がある

 また、大学等修学支援法はその内容について多くの問題をはらんでいる。まず、支援対象の個人要件が住民税非課税世帯およびそれに準じる世帯とされ、世帯収入380万円以上の低・中位所得者層は支援の対象から除外されている。次に、授業料および入学費の減免制度の創設と日本学生支援機構の給付型奨学金の拡充とを謳っているが、住民税非課税世帯とそれに準じる世帯とでは減免額および給付額において格差が設けられている。そのため、一部の私立大学等では、学費の自己負担が発生する場合がある。さらに、機関要件が設定されており、経営状況等の確認を受けた大学等高等教育機関(確認大学等)しか支援対象とならない。そのため、確認大学等が少ない地方在住者にたいする制度的な排除をまねくおそれがある。これらの他にも、消費税の増税分を充当するということから恒久的な財源をもつ制度とはいえないこと、支援打切りの罰則規定が機械的かつ非常に厳しいことなどが挙げられる。

 大学等修学支援法は、以上のように権利としての高等教育無償化とはいいがたい。しかし、そればかりでなく大学等修学支援法は既存の学費減免制度を後退させる可能性すらはらんでいる。現状、私立大学も含めて、多くの大学法人は大学院生も含めて申請可能な学費減免制度を設けている。しかし、大学等修学支援法が定める支援の個人要件にしたがって、既存の各大学が設けている学費減免制度の減免対象および水準が後退させられる可能性がある。すなわち、これまで大学によっては世帯収入380万円以上の低・中位所得者でも申請することが可能であった制度が廃止ないしは縮小される可能性があるのである。今般、私立大学はもとより、国立大学が学費の値上げに積極的な姿勢を取りつつあるが、大学等修学支援法の成立によって、既存の学費減免制度が後退させられるのであれば、それは本末転倒である。われわれ全院協は、大学等修学支援法は既存の学費減免制度を後退させることがないよう、今後も注視を続ける。

3.大学院生を含めた権利としての高等教育無償化と研究者支援の拡充こそが必要

 以上のように、権利としての高等教育無償化という観点からみたとき大学等修学支援法には、その目的においても手段においても根本的な点で問題がある。
しかし、われわれ全院協としては、大学等修学支援法の付帯決議に示された「無償教育の漸進的な導入」の実現に向けて、同法がその諸問題を克服し、大学院生を含む権利としての高等教育無償化への一里塚となるのであれば、必ずしもその意義を否定するものではない。日本政府は2012年に国際人権規約(A規約)第13条2項(b)、(c)の留保を撤回し、高等教育の漸進的無償化を進めることを内外に向けて公約している。大学等修学支援法の付帯決議が政府および関係者に求めているのはこの公約の履行である。われわれ全院協は、大学等修学支援法が国際人権規約の趣旨に則ってその目的を是正し、また政府および関係者はその実現に努めることを強く要求する。

 また、われわれ全院協は、2004年以降、これまで15回にわたって大学院生の生活実態調査を実施し、経済的な負担、不安が大学院生の研究活動に非常に否定的な影響を及ぼしていることを統計的に明らかにしてきた。日本政府は、これまでのところわれわれ全院協が行っているような大学院生の生活実態調査を自ら実施することを怠って来た。大学院生は、研究指導を受ける学生であると同時に、主体的に研究活動を行う研究者である。にもかかわらず、公的な研究者としての大学院生に対する経済的支援は、日本学術振興会の特別研究員制度(DC1・2、PD、RPD)を除いて皆無に等しい。仮に特別研究員に採用されたとしても月額20万円の「研究奨励金」が支払われるのみであり、この中から健康保険料や年金などの社会保険料と家賃を含む生活費を支出すれば、自立して研究と生活をするうえでは極めて心もとない金額となる。研究者支援の拡充もなく、大学等修学支援法が大学院生を支援対象から除外するということの意味は、これらの諸問題から眼を背けることに他ならないのである。

 以上から、われわれ全院協は、①大学院生を含めた権利としての高等教育無償化の実現に向けた漸進的な取り組みと、②その具体的な方途としての付帯決議の着実なる履行、そして③実態調査に依拠した研究者支援の拡充を求めるものである。18歳人口のうち20人に1人が大学院生である。われわれ全院協は社会を構成する1人1人の人間として大学院生の生活保障が制度的に確立されるよう、今後とも働きかけを行う。

以上

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