声明・談話

国立大学の「独立行政法人」化に反対する声明

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2000.06.11

全国大学院生協議会(全院協)理事校会議

 去る5月11日、自民党政務調査会文教部会・文教制度調査会が、「提言 これからの国立大学の在り方について」を発表した。それに引き続き、5月26日には、国立大学長・大学共同利用機関長等会議が開催され、文部省の方針として、国立大学における「独立行政法人」制度の導入が、文部大臣から正式に表明された。文部省の方針は、自民党の提言に概ね沿った内容となっている。

 自民党提言及び文部省方針では、国立大学の設置形態が、行政機関の一部であるために文部大臣の広範な指揮監督権の下に置かれているために、大学運営の「自主性」・「自律性」に限界をもたらしているとの問題意識が前提となっている。その上で、独立行政法人通則法を100%適用するのではなく、国立大学に「ふさわしい」形での「法人化」を目指すとしている。

 大学における「独立行政法人」制度の導入は、予算獲得における大学間競争を推し進め、文部省の意向に沿った大学運営が強いられることにより、大学自治の破壊を招くものである。このことは、院生の研究・教育環境に深刻な影響を与えるにとどまらず、学問全体の発展にも悪影響を及ぼすものである。

 今回出された提言及び方針は、大学運営の「自主性」・「自律性」を確保しつつ「独立行政法人」制度を導入するとうたい、「法人化」のもたらす弊害が除去されるかのように述べている。しかし、そのための具体的な方策は、弊害の除去につながらないばかりか、むしろ逆効果となるものである。このことは、以下の諸点において指摘することができる。

 第一に、予算配分において、「独立行政法人」制度は、「独立採算制ではなく、国の予算における所要の財源措置が前提とされ、移行前の公費投入額を踏まえて、運営費交付金等を措置する」(文部大臣説明)とされているが、その一方で、「競争的な資金の拡充とオーバーヘッド制度の導入」(同前)をも打ち出している。現状においてさえ不充分な水準にとどまっている大学予算の増額は保証されておらず、競争的な予算配分によって研究条件や教員配置における大学間格差の拡大や学費の高騰が懸念される。

 第二に、「企画立案機能と実施機能の分離」に関して、「大学の主体性を尊重するための一定の調整を図ることが不可欠」(文部大臣説明)と述べているものの、そのための具体策としては、「調整法あるいは特例法」による対応が述べられるにとどまり、先に強行された学校教育法等一部改正によって学長権限の強化されることに加えて、独立行政法人通則法にみられるような主務大臣による監督・関与の余地が残されることは明らかである。このことは、政府・文部省による大学運営への干渉・介入が強まり、構成員による自主的決定が保証されなくなることを意味する。

 第三に、大学の教育・研究の「効率性」について、市場原理に委ねることは適当ではないとしながらも、「第三者による客観性や専門性の高い評価と、評価結果を踏まえた適切な資源配分を通じて高められる」(文部大臣説明)との見解に立っており、「独立行政法人」制度導入の主要目的の一つである規制緩和を推し進める立場をとっている。その帰結として、教育・研究に対する評価に第三者が加わるべきであるとの主張が展開される。しかし、真の意味での客観的かつ専門的な評価を果たすためには、国家や企業からの独立が不可欠であり、ここでの「第三者」にそうした要件が充たされると考えるのは困難である。「第三者」による評価がもたらすものは、予算配分による誘導と大学間の競争であり、大学の自治への侵害につながる。こうした動きは、効率重視の「評価」を大学教育・研究に導入し、公教育を「スリム化」していく一環として打ち出されており、国立大学にとどまらず、私立大学、公立大学へも深刻な影響(即ち、競争的環境の下での淘汰・選別)をもたらすものである。

 このように、自民党提言及び文部省方針にみられる「改革」案は、独立行政法人通則法がもたらす問題の解消にはつながらないものである。そのため、現状においてさえ研究・教育条件が不充分であり、かつ自由な学問研究と構成員による自主的な決定が脅かされつつある現状に対する処方箋とはなり得ないばかりか、むしろ逆効果をもたらすものとなっている。

 国立大学を、大学の「自主性」・「自律性」を高める方向で改善しようとするならば、大学予算の抜本的な拡充と、構成員自治を可能とする諸条件の整備こそが求められる。そして、大学の自治を掘り崩すことにつながる、「独立行政法人」制度導入は中止すべきである。

 以上の趣旨により、全国大学院生協議会理事校会議では、ここに政府に対し、国立大学への「独立行政法人」制度導入を行わないよう求める。また、各大学において、「法人化」が公立、私立を含めた、全ての大学にもたらされる問題点を明らかにし、院生の実態と要求を踏まえた高等教育政策の実現に向けた取り組みを行っていく。

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