活動報告

参議院内閣委員会で議長が参考人として発言

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2020.07.01

 6月16日、梅垣緑全院協議長(一橋大学大学院社会学研究科博士課程)は、参議院内閣委員会で、科学技術基本法改正案に関して、大学院生の生活や研究の実態を参考人として発言しました。科学技術基本法改正案では市場経済に資するものとして「イノベーション」が国家事業として位置づけられているところ、これまでの高等教育政策、科学技術振興政策の下で大学院生に対する経済支援が脆弱であることを指摘し、大学院生も含めた高等教育無償化や給付制奨学金の充実、研究職の増加などを訴えました。以下に、質疑の様子を紹介します。

意見を述べる梅垣議長(2020年6月16日、参議院内閣委員会にて)

出典:国会会議録データベースより( https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120114889X01620200616&spkNum=82&single

○田村智子君
 日本共産党の田村智子です。
 科学技術基本法は一九九五年に制定されてから二十五年ぶりの抜本改正となります。是非現場の声をお聞きしたいと思いまして、全国大学院生協議会の議長梅垣緑さんに参考人としてお越しいただきました。大学院生協議会は、院生の皆さんの研究や生活の実態調査にも取り組んでこられて、各政党にそれを踏まえた要望書などもお届けいただいていると思います。日本の今後の研究力を考えたときに、博士課程への進学者が減少していることは大変重大だと思います。
 そこでまず、当事者として、博士課程の学生がなぜ減少しているのか、見解をお聞かせください。

○参考人(梅垣緑君)
 今御紹介にあずかりました全国大学院生協議会の議長の梅垣です。
 お答えします。
 大学院にまず在籍し続けるということに大きな経済的負担が掛かるという点、それから大学院を出た後の生活を展望するのが非常に難しいという点、この二点が大きな理由だと考えております。
 例えばですけれども、博士号を取得するまで最短で五年間、それから人によってはそれにプラスして二、三年ということになりますけれども、その間の学費、生活費、場合によっては研究費を、これを支出し続けるということが院生に求められます。出身世帯で負担するのが難しいという場合には、本人のアルバイトや奨学金ということで、借金を背負うことによってこれを捻出します。私どもの実施している全国的なアンケートでも、八〇%前後、院生の八〇%前後がアルバイトをしていて、半数近く三百万円以上借金をしているということが回答には寄せられています。
 そういうことで、ようやく学位を仮に取得したとした後でも、運が良かったとしても一年から三年の任期付きのポスドクの仕事をするということになります。通常それすらないということも珍しくないということです。こうして、生活の保障が非常に弱い、そして、同世代と比しても決して高くない給与で二十代後半に差しかかっていくという中で、自分の人生設計と自分の研究が衝突するということがあります。
 確かに、学振ですとか卓越大学院などといった競争的な資金の増加による支援を強化してきたという側面もあると思いますけれども、しかしながら、実際に支援を受けられるのが大学院生ほんの一握りということがありまして、自分が支援の対象になるか分からないという点で、将来不安がなかなか払拭されないということがあります。
 高い経済的な負担、精神的な負担、そういう中で研究を続ける、そして、しかもそれが高額の借金が前提であり、不安定な職業であるということによって、普通の生活を送るという、いわゆる大学の研究生活ではない別の道を歩む、人生設計にかじを切るという選択をする院生が増えるということは決しておかしくないというのが実態じゃないかと思います。

○田村智子君
 ありがとうございます。
 本当に借金だけ抱えて、先の人生設計ができないという、これが本当に皆さんの、何というんでしょう、安心して研究できないという重大な事態を生んでいるなということを痛感させられます。
 本法案では、そうした若手を含む研究者の処遇の確保がうたわれていて、若手研究者支援総合パッケージも打ち出されました。同時に、この法案ではイノベーション重視の方向も打ち出されています。
 これらによって博士課程学生の研究環境や雇用というのはどのように影響を受けると思われるか、お聞かせください。

○参考人(梅垣緑君)
 これについてもお答えします。
 まず、いらっしゃる国会議員の皆さんに申し上げたいと思いますのは、大学院生の本業って研究ですけれども、研究そのものが、ある種、既にイノベーションの要素を含んでいるということです。
 我々院生は自分の興味、関心に基づいて研究のテーマを決めるということになりますけれども、その際、まず第一に行うのは先行研究の徹底的なレビュー、批判ということになります。つまり、既に分かっているということに研究する価値はないわけです。その点で、日々院生が研究生活、研究活動を送りながら生み出されてきているのは、オリジナルの新たな知見という意味では既にイノベーションであるということを知っていただきたいということがあります。
 その上で、衆議院の方も含めて議事録を拝読した部分あるんですけれども、研究に元来含まれているようなこういうオリジナリティー、創造性、新規性、こういったものをどう担保するかということの議論がなかなかされてきたと言えないのではないかと思います。
 今回の改正でいわゆるイノベーション重視の方向性が打ち出されていることには、イノベーションがこういった市場経済の下で成長に資するものとされている点、それから、それが国によって上から指導されるという点に大きな危惧を寄せております。
 ちょっと済みません、長くなりますが、その上で二点述べさせていただきますと、短期的な目線でいわゆるイノベーションにつながるかどうかという判断を研究に下す、要するに出口をあらかじめ設定をするということ、しかもそれに基づいて予算配分を行うことが、院生などの若い研究者が既存の枠組みを超えて知的な創造力を発揮することを妨げるのではないかということです。特に、基礎研究分野、人文社会科学分野、自由な課題設定が非常に重要である、しかもこれまで取り残されてきた、取り落とされてきたという分野で、これがイノベーション重視によって解決されるとはなかなか考えづらいというのが実感です。
 先ほど述べたとおり、院生、厳しい生活環境に身を置いているために、本来、自由に自分の知見、自由な知見を、関心を広げていくというところが、できるだけ設定された出口に寄せようとするという動機が強く働くと思います。その結果起こると思われるのは、表向きイノベーションとされる研究にできるだけ寄せられた実のところ狭い関心、切り取られた、そういう窮屈な研究ばかりになるのではないかと思っています。自由に自分の関心に沿った研究をしようとする基礎研究、人文社会科学研究などといった分野で結果としてキャリアを形成できない、学問的状況がより貧困になるということが、危惧しています。
 もう一点ありますが、そもそもどのような分野であったとしても、学問研究というのは真理の探求のために行われるという点です。その成果というのは、ある種、一つの国単位にとどまらない普遍的な価値を持つということがあります。例えば、技術にしても、人間社会全体の幸福に資するかどうかという点で意味が生まれるというところで、経済成長、イノベーション重視の方向性が打ち出されて、国がこれを目標として強く位置付ける、しかも大学にその責務が課されるということで、大学や研究現場に大きな統制が強まるんじゃないかということを危惧しております。
 特に、私、一橋大学に在籍しておりますけれども、二〇一四年の学教法改正や国立大学法人法改正、運営費交付金の削減、こういったことで選択と集中を前面に掲げる体制になって、教職員、学部生、大学院生の風通しが非常に悪くなっております。重大なハラスメントが解決されない、授業料や学生寮の寮費が値上げされる、学生が不利益を被るような制度の変更が事前の説明、話合いなく一方的に決められる、こういったことが起こってきております。
 科学や技術も、教育によってその最先端の知見を学生に伝えるということ抜きには担い手の再生産はできないということです。先ほど申し上げたとおりなんですけれども、学問研究や技術、そして高等教育、こういったものの公共性に照らして、国による統制が果たしてこれ以上強まっていいのかということを率直に申し上げたいと思います。

○田村智子君
 冒頭の、研究は全てイノベーションであるというのは、本当にこれはそうですよねと改めて感じましたよね。そうです、本当に。
 ごく一部のものを切り出して、これがイノベーションだと。これが本当に研究そのものの自由を奪う、狭くするという御指摘など、非常に学ぶところがあって、やっぱり基本法というのは、こういう議論の積み重ねをボトムアップでやっていくべきなんじゃないかということを改めてちょっと提起をしたいんですね。
 最後にお聞きしたいのは、それでは、博士課程学生や若手研究者にどのような支援が求められていると思うのか、山ほど言いたいことはあるかと思いますが、そんなに時間気にしなくていいですから、この際ですのでお話しください。お願いします。

○参考人(梅垣緑君)
 済みません。お答えします。
 これも大きくは三点なんですけれども、まず第一に、やはり学費負担を軽減する、あるいは無償化に向けて動くということです。
 今、どんなに優れた研究を残そうとして学問的貢献をしたとしても、学費を納めなければ学籍はなくなりますし、学位も得られません。結果として研究者としての道も開けません。日本では、学位というのが実質的に学費の対価として与えられているという側面があり、これが院生の生活を苦しめているとともに、本来は国立、公立、私立といった大学の設置形態を問わないはずの学問の公的性格を大きくゆがめているのではないかと考えます。これを普遍的に広く軽減して、無償化ないし権利としての高等教育を実現するということが必要です。
 第二に、奨学金の充実ということがあります。
 現在、院生向けの公的な奨学金というのは、学生支援機構の実施するものですと貸与の奨学金しかありません。科学技術基本計画、これまでも院生の二割に生活費相当、博士課程院生ですね、の二割に生活費相当額を支給するということが長年明記され続けてきておりますけれども、一向に実現をしておりません。借金ではない給付の生活費によって院生の研究を支えるということが求められているわけですけれども、行政的には放置され続けてきているということがあります。
 三つ目ですけれども、やはり安定的な職、ポストの充実ということがあります。
 院生が博士号を取得して、二十代半ばから後半、三十代前半に差しかかるというところで、二、三年程度の短い任期にとどまらない長期的な生活の安定が望めるポストがなければ、自らの人生設計と研究、これを両立することが非常に困難になります。
 こういった、これらの支援を通じて、本来の意味で自由で創造的な研究、これが実現する環境が整うということの中から優れた研究が出てくるものと考えております。

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