第75回全国代表者会議決議(2020年3月)

075全代 第2章第6節 他団体との連携

2020.03.15

 本節では、2019年度に全院協が取り組んだ大学の問題に関わる様々な運動について、協力して活動を展開した団体との関わりから振り返りをし、その成果と課題、今後の方向性を述べる。

■ 奨学金の会

 例年、全院協は「奨学金の会」の加盟団体として、この活動に協力・参加してきた。奨学金の会は、正式には「国民のための奨学金制度の拡充をめざし、無償教育をすすめる会」であり、教育関係の労働組合や、保護者の団体、学生や高校生当事者の団体などが一致して、給付型金創設金や幼児から高等教育までの無償実現などの共通した課題に取り組むために結成されたいわゆるキャンペーン団体である[1]。奨学金の会の具体的な活動は、各分野における情勢共有をする月一度の定例会議と、文部科学省への要請活動、2008年より始められた国会へ提出する請願署名の実施などである。またこれらに加えて2019年度は、奨学金の会事務局が取りまとめと調整を担って、国連の人権委員会に提出するNGOのカウンターレポートを作る[2]「市民報告書をつくる会」[3]の取り組みが行われた。

 全院協としては、毎回の定例会議に出席して院生に関わる情勢を共有するとともに、署名の文案の検討及び作られた署名を集める活動[4]への参加、また署名提出の際の院内集会への参加などを通じて奨学金の会の活動に関わってきた。今年度は、大学等修学支援法の問題、国立大学の授業料値上げの問題についても奨学金の会で取り組まれた。

 奨学金の会及び市民報告書をつくる会は、全大教、私大教連、学支労など高等教育と奨学金に関わる運動団体との直接の接点であり、これらの団体と連携し、また大学院生の問題を共有することは非常に重要である。今後も定例会をはじめとして、院内集会やシンポジウム、署名活動など奨学金の会が行う諸活動に事務局員が積極的に参加することが望ましい。それにあたっては、複数担当者を置くなど、事務局のなかで負担が集中しないように留意する必要がある。


[1] 加盟団体は以下の通りである。全国労働組合総連合、全日本教職員組合、全国私立学校教職員組合連合、特殊法人等労働組合連絡協議会、全日本医学生自治会連合、全国大学院生協議会、首都圏大学非常勤講師組合、あいち公立高校父母連絡会、「お金がないと学校に行けないの?」首都圏高校生集会実行委員会、日本学生支援機構労働組合(2020年2月時点)
[2] 日本政府が批准する、中等・高等教育の漸進的無償化を定めた国際人権A規約13条2項(b)及び(c)について、国連の社会権規約委員会は日本政府による条約の実施状況についての「総括所見」と「一般意見」を示しており、またこれに対する日本政府の回答を求めた。この回答の期限が2018年5月31日であったが、日本政府はこれを無視し続けている。条約の実施状況については、社会権規約委員会に提出された政府によるレポートとNGOによるレポートの双方によって総合的に判断が下されるものであり、今回の「つくる会」の活動はこの後者のNGOによるカウンターレポートを作成し提出しようという取り組みである。
[3] 正式には「権利としての無償教育を実現し、社会の未来を拓く市民報告書をつくる会」
[4] 2019年2月~5月に取り組まれた署名活動では50857人分の署名が集まり、これを提出するとともに6月に院内集会を開催した。2020年の署名活動も、2月15日からすでに始まっている。

■ 大学フォーラム

 大学フォーラム(正式名称「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」)は、2019年2月に設立された団体で、Webサイトの「このフォーラムについて」によれば以下の三点を中心に活動するとしている。

  • 大学の現実を率直に見つめるとともに、明日に向かって確実に歩むための道をじっくりと探り、社会に発信していきます。
  • 個別大学を超え、国公私立という設置形態を超えて共通の関心を育て、立場や意見の違いにもかかわらず一致できる要求を明らかにすることをめざします。
  • 大学関係者だけでなく、受験生や大学生をもつ親の皆さん、中等教育関係者や、大学と広く市民社会とをつなぐメディア関係者などともいっしょに考え、政策を転換するために行動することをめざします。

 また、その設立趣旨[5]によれば、今日の大学の危機的状況は①大学の基盤的経費の削減による教育研究の土台の弱体化、②不断の『改革』の押し付けによる大学の疲弊、③(政府から押し付けられることなく自主的・自立的に)「大学とは何か、大学が大学である以上備えるべきは何か」を模索し実現すること、④高等教育に対する公的費用負担のあり方を根本的に考えること、などを課題として設定しており、全院協としてもその多くを共有するものであると考えられる。

 2019年中、大学フォーラムは3月と6月、11月にシンポジウムを開催するとともに、公開の研究会を開き[6]、情報発信と意見交流を進めている。全院協としては、2020年にも引き続き展開されていくであろう大学フォーラムのイベントに参加するとともに、大学院生の問題にもフォーカスした問題提起をするためにより発展的な連携を模索していきたい。


[5] 「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」を―社会へのよびかけ―(設立趣旨)
[6] 大学フォーラム「過去のイベント」ページ

■ Change Academia 学術の構造を変えるアクション

 Change Academiaとは主に大学院生や若手研究者について、「研究者の生活の安定」「平等な研究の機会」などを求めることを目的に2019年に結成された政策提言と院生同士の交流などを行う運動団体[7]である。全院協は2019年9月に連絡を受けて懇談の機会を持って以来、問題意識の多くを共有する団体として、不定期に意見交換や相互の交流の機会を持ってきた。特に、2019年11月に実施した全院協主催の要請行動へのChange Academia関係者の参加や、2020年1月に行われたChange Academiaのシンポジウム『大学院生と考える日本のアカデミアの将来』への全院協事務局メンバーの参加など相互の交流を図ってきた。

 Change Academiaは高等教育のあらゆる段階と、それ以降の研究者のキャリア形成などアカデミアに関わる幅広い問題に取り組んでおり、今後もChange Academiaとは組織としての協力と人的な交流を進め、一致して共通した課題に取り組むことが重要である。


[7] 詳しくはChange AcademiaのWebサイトにある「なぜ?Why?」より

■ FREE 高等教育無償化プロジェクト

 FREEは2018年9月に結成された高等教育の無償化を目指す「アドボカシー・グループ」である。この間FREEは「学生1万人実態調査」としてアンケート活動を行い、それをもとにしたイベントや政策提言(議員・省庁)活動を行ってきた。FREEの主な活動の目標は以下の3点である[8]

  • ⾼等教育の無償化を⽬指し、⼤幅な学費値下げにふみ出す。
  • ⾼等教育の授業料免除枠を⼤幅に拡⼤する。
  • 奨学⾦制度を抜本的に改善する‒‒‒‒給付制奨学⾦の抜本増。貸与奨学⾦の完全無利⼦化。返済中の奨学⾦の利⼦払いの免除。返済困難者への救済制度の拡充。

 FREEの活動の特徴の一つは、量的に分厚いアンケート調査を実施していて、学生の生活状況について立体的かつリアルに分析することが可能な活動を展開していることである。また、こうした実態をもとに文部科学省前でのラリー、メディアへの働きかけ、省庁・政党への働きかけなど、多角的にコンセンサスを得られるよう活動を広げている。

 大学院生は自主的・自律的に研究を営む存在であると同時に、高等教育の中で教育を受けてトレーニングを積む存在でもある。FREEの活動は主に教育を受ける立場としての学生にフォーカスしたものであるが、高等教育を受ける権利の実現という点は全院協としても共有するものであり、今後FREEの活動と積極的に連携する必要がある。省庁・政党への要請活動や、文科省前ラリーなどイベントに参加しまた問題意識を共有するチャンネルを拡大することが望ましい。


[8] 設立宣言より抜粋。

■ NU for ALL 授業料値上げの中止を求める国立大学の会

 「授業料値上げの中止を求める国立大学の会(以下、国立大学の会)」は、2018年から2019年にかけて相次いで発表された5つの国立大学の授業料値上げに対してその中止を求めて結成された団体である(詳しくは情勢分析の「学費・奨学金」の節参照)。授業料値上げを発表したのは東京工業大学、東京藝術大学、千葉大学、一橋大学、東京医科歯科大学の5校であり、国立大学の会はこれらの大学の有志がそれぞれの大学に対して説明を求め、また値上げの中止を求めるなかで連携して活動を展開する必要から結成された。

 その結成宣言では、少なくとも授業料をもとの標準額に戻すこと、大学を運営するうえで学生や保護者にこれ以上の負担を求めることなく、国立大学として予算獲得に向けて一致して行動することなどを求めている。今後の活動方針としては少なくとも以下の4点が示されている(結成宣言より抜粋)。

  • 値上げが決定された5大学の関係者で、結成宣言を基にアピールを作成し、それへの賛同を広げます。
  • 値上げが決定された5大学での取り組みを連携して進めます。
    • 2020年度から施行される高等教育等修学支援法では、標準額の53万5800円までしか免除されません。住民税非課税世帯をはじめとする低所得層に年間約10~11万円もの自己負担は過酷であり、救済措置を各大学に対して求めます。
    • 値上げされた授業料を払っている学生や2020年度の新入生に対して、値上げの問題点の周知を行い、取り組みへの参加をよびかけます。
  • 情報公開請求や大学当局への要請を通して、値上げの根拠やプロセスを明らかにします。各大学の財務諸表の分析をおこない、運営費交付金の配分などが公正なものか、集団的に検討します。
  • 国立大学が果たすべき社会的役割・使命について、社会に問題提起し、発信します。教職員組合、学生・院生団体、学会など、大学・研究にかかわる問題に取り組むあらゆる団体・個人と共同を広げます。

 このうち、特に最後の一点と関わって全院協もこうした活動と協力・連携して国立大学の授業料値上げの問題に取り組むことが今後必要である。

 また、情勢分析の学費・奨学金でも触れた通り、国立大学についてはその授業料標準額の「自由化」が文科省において議論されており、これについても国立大学の会が声明を発表している 。全院協としても今回の検討会議で検討されている国立大学の授業料「自由化」、また自主財源の拡大の名目のもと導入が検討されている「大学債」の発行の自由化、定員の拡大とセットになって行われる留学生の授業料の値上げなど、国立大学をターゲットとして進められようとしているさまざまな「規制緩和」に対して国立大学の会と共同して反対運動を展開することが求められる。それにあたっては、全院協がこれまで培ってきた要請行動のノウハウなどを共有するとともに、特に授業料値上げが行われ、国立大学の会の有志メンバーの多くが在籍する一橋大学において、一橋大学の院生自治会などとの連携を強化し、情勢の共有と連携の緊密化に努めることとする。