第75回全国代表者会議決議(2020年3月)

075全代 第2章第2節第2項(2) 文部科学省に対する要請項目と回答、質疑応答

2020.03.15

 文部科学省との要請では、全体の時間を考慮し、事前に特に明示的な回答を求めたい要請項目を絞ったうえで先方に送り議論に臨んだ(要請項目の全容は文末の補足資料を参照)。以下、要請項目に対する同省からの回答である(一部回答の趣旨に関わらない部分は中略した)。

【要請項目と回答】

1. 国際人権A規約第13条2項(c)にもとづく高等教育の漸進的無償化
② 所得の多寡によって学問への道が閉ざされることが無いよう、大学等修学支援法にもとづく支援の対象を大学院へ拡充することを求めます。また、導入に際しては大学側に対しては条件を一切課さないことを求めます。

【回答】大学院生は大学等修学支援法の適用対象とはしない。

 まずこの高等教育の修学支援制度の支援対象に関しては、経済状況が困難な子供の大学等への進学率が低いということなどを踏まえまして、まず「真に支援が必要と考えられる低所得世帯」にですね、支援対象として実施するものであります。大学院生の方に関しましては、大学の学部や短大、専門学校を卒業した方が、修了後して一定の「稼得能力」がある場合が多いということを踏まえまして、今回の支援制度においては、支援の対象となっていないところでございます。

 しかしながらですね、大学院生の方に関しましては、別途ですね、日本学生支援機構の奨学金の業績優秀者の返還免除制度などによるですね、「給付的支援」を実施しているところでございまして、こうした政策などを中心に着実に実施することに経済的負担の軽減に引き続き取り組んでまいりたいと考えております。

 大学の要件に関する所でございますね、機関要件というものでございますが、今回このような要件を設けた趣旨といたしましては、まず大学等での勉学がですね、職業に結びつくことによりまして、社会で自立し活躍できるような学問追究と実践的教育のバランスの取れた質の高い教育を実施する大学を支援の対象とするため、今回この様な要件を設けさせていただいたことでございます。この機関要件に関しましては、現在の学校様の取り組みを適切に充実発展させることで充たすことのできる内容で考えているところでございまして、実際に大学様の要件の確認の割合に関しては97%を超えている段階でございます。

2. 研究生活の基盤となる経済的支援の抜本的拡充
① 奨学・事前給付の観点から、給付型奨学金の対象者を大学院生にまで拡大すること、および有利子奨学金の無利子奨学金への全面的な切り替えないしは返済額の減免制度の確立を求めます。
④ 日本学術振興会特別研究員の採用枠の拡大ならびに支給額の増額を求めます。併せて、同制度の性格に鑑み、税控除の対象とすることを求めます。

【回答】①、②ともに要請項目にあるような制度改正は行なわない。

 ①についてですが、……給付型奨学金の大学院生への拡充ということにつきましては。現行日本学生支援機構の方で行なっております業績優秀者の免除制度というものがございます。あの、2020年の4月から大学等の学部生に対して行われる給付型奨学金につきましては、全世帯の約2割が対象となってくるということを推定しているところでございますが、業績優秀者免除につきましては、概ね3割の学生が対象となるところでですね、そちらをご利用いただくのがよろしいのかなと考えてございます。また有利子奨学金の無利子奨学金への全面的な切換えでございますが、こちらはですねやはり財政的な事情もございまして、完全に無利子化するのは難しいのかなとというふうに考えているところでございますが、昨今の低金利の状況に鑑みまして、今年度の4月からですね、有利子の掛け率の加減を0.01%だったところを0.001%にまで下げさせていただいたところでございます。同じく減免制度についてもですね、やはり財政的な事情というところがございまして、今すぐに実施というのは難しいのかなと考えてございますが、現在博士課程、修士課程に進学されている大学院生の皆さんがですね、社会に出られる方との均衡というところも考慮いたしまして、現行の運用とさせていただいているところでございます。

〔文科省側回答者代わって、〕④について、お答えさせていただきます。……まず④について説明する前に研究奨励金とはということについて説明させていただきます。研究奨励金につきましては、優れた若手研究者に対してその研究生活の初期において自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与えるために支給するものとなっております。いただいた項目の中の質問についてまず採用枠の拡大についてですけれども先ほど申し上げました通り特別研究員制度はすぐれた若手研究者に対してその研究初期において自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与え、その養成を図る制度となっております。この制度趣旨に鑑みまして、特別研究員の採用に当たりましては、わが国の学会の第一線の研究者で構成される審査会におきまして書面審査や面接審査によりまして、優れた研究者を厳正に選考する必要がございます。そのような結果の下、厳しい財政状況や社会情勢の変化等を踏まえながら必要な支援を行っているところでございます。次に支給額の増額について説明をさせていただきます。平成28年度学生生活調査によりますと、食費・住居・光熱費等の生活費と学費とを合わせた額につきましては、博士課程学生では年間225万1000円、1月当りに致しますと、18万8千円となっております。したがいまして、本制度の趣旨やこのような状況に鑑みますと、特別研究員の年額240万円の支給水準につきましては、不十分な金額ではないかと考えております。次に税制控除の対象とすることについて説明をさせていただきます。特別研究員に支給される奨励金につきましては、採用された研究者が研究に専念できるようにするため、研究者の生活費を支援するものであり、その性格に鑑みますと所得税法第28条にある給与所得と評価されるものとなっております。このため税制法上、課税対象となっております。一方で、生活にかかる経費ではなく、申請書に記載された研究課題や研究計画を遂行するために要する経費につきましては、研究奨励金の3割相当額を研究遂行経費という形で課税対象から除外することを可能としております。今後とも厳しい財政状況や社会情勢の変化を踏まえながら必要な支援の充実に努めてまいりたいと考えております。

3. 大学院生および博士課程修了者の就職状況の改善
② ほとんどの大学で任期付きポストの無期転換制度が導入されておらず、若手研究者の6割が任期付きポストに就いています。この現状を重く受け止め、雇用の安定化のための政策・予算措置を取ることを求めます。

【回答】プロジェクト雇用の長期化により雇用期間の延長を図る。民間就職の機会を増やす。

 要請に記載されていた通り、若手研究者の安定的なポストに向けて、各大学においても努めていただいておりますところでございます。また、政府としても、内閣府などを中心として若手研究者の安定的なポストというところについては重要なものと認識しているところでございます。ただ一方でアカデミア、大学のポストはもちろん大幅に拡充することは難しいものでございまして、限りがあるというところ、ただ一方で研究者養成という観点で研究を続けたいという大学院生の方、大学院を卒業された方も多いということは認識しておりますので、大学院教育という観点ですと民間企業ですとか、また大学以外の場でも研究を続けるということで自分の自己実現ができる形で進められるように、産業界と大学側と共同して進められるようなことを促進していきたいと考えております。まだ具体的に動き出しているわけではないのですが、近々、大学と産業界とを文科省を通じてつなげるような形で対話の場を設けるですとか、そうしたことを考えているものではございます。

〔文科省側回答者代わって、〕先ほど高等教育局の方〔――前段落までの回答者〕からもお話がありましたように、若手研究者の任期が不安定化しているということについては、こちらも課題として認識しているところでございます。事前にいただいた書類の方でも、ご指摘いただいております通り、こちらの文部科学省の方でも、「テニュアトラック普及・定着事業 」ですとか特別研究員制度を通じて安定的なポストの確保ということには努めてきたところですが、引き続きこうした事業を続けるとともに、制度といたしましても各大学における人事改革ですとか、あとはこの春発表されました「研究力向上改革2019 」等におきましてプロジェクト雇用における若手研究者の任期の長期化に取り組むといったことも掲げておりますので引き続きこうした制度改革等も進めながら取り組んでまいりたいと思っております。

4. 国立大学運営費交付金、私学助成の拡充
① 国立大学運営費交付金を拡充することを求めます。また、選択と集中の論理に根差した大学改革や近視眼的な競争を強いる民間資金獲得などに応じた予算配分ではなく、基盤的経費を増額することを求めます。

【回答】運営費交付金の大幅な増額はない。評価に基づく配分を継続する。

 まず、国立大学法人運営費交付金につきましては、こちらは国立大学のですね、教育の基盤を支える予算、運営費交付金でございます。で、我々も事らの方につきましては、特に国立大学が安定的にですね、研究を行うためには必要不可欠な予算でありますので、この拡充には努めているところでございまして、来年度令和2年度の概算要求においては今年度より333億円増の1兆1304億円を要求させていただいているところでして、今まさしく財務省と年末の予算編成に向けて折衝をしているところでございます。で、つづいてまた以下でですね、「選択と集中」といったお話がありますけれども、我々も過度な「選択と集中」といったものは望んでいるわけではありませんが、一方で1兆円という多額の国費が投入されているということについては、国立大学としても一定の社会に対する説明責任があり、そういったところについてはきちんと説明していかなければいけないというところで、一定程度のですね、例えば資料に基づく配分ですとか、評価に基づく配分といったものは必要かなと考えてはおります。ただ、先ほど申し上げましたように、それが過度に評価配分などを行ってしまうと、大学の教育研究の安定性ですとかに支障を来す恐れがございますので、そういったところは我々としてもきちんとバランスを取りながらですね、大学がきちんと安定的、継続的に教育研究ができるように運営費交付金をですね、きちんと確保していきたいと考えているところでございます。

5. 大学院生のライフプラン実現支援の強化
② 現行の制度設計のもとでは、病気や、親族の介護、出産・子育てなどの理由があっても、休学期間中、奨学金の支給が停止されてしまいます。休学期間中も奨学金を受け取れるようにする、あるいは休学期間と同じだけ受給できる期間を延長するなど、奨学金制度の柔軟な運用を求めます。

【回答】奨学金は休学等の非修学期間には支給しない。

 現在の日本学生支援機構の奨学金制度においては、休学期間中奨学金の支給が停止されるということでございますが、ことらはやはり「奨学金」という名称からもわかるように、学問を奨められる方に対する学資金としての貸与という所でございますので、こちらはご理解いただきたいなとというふうに考えておりますところでございます。一方でですね、例えば博士の3年間のうち1年間を休学されて卒業を1年延期されるという場合にはですね、その復学後の1年間につきましては就業年限以内であればですね奨学金の貸与・給付をですね、延長させていただくということになっておりますのでそうした制度をご活用いただければと考えてございます。

6. 行政府による大学院生を対象とした研究・生活実態調査の実施
我々がかかるアンケート調査を実施している背景の1つには、行政府がこうした調査を怠っているという事実が存在します。本来、高等教育および研究者支援に関する議論はそういったデータをベースに行なわれるべきと考えます。したがって、今後、行政府が、その責任に基づいて、大学院生の経済的状況を中心とした研究・生活実態調査を実施することを求めます。

【回答】大学学部段階を含む「学生生活調査」を行っているため、大学院生に特化した調査は行なわない。

 大学院生を対象とした研究生活実態調査の実施につきましてはですね、そもそも文部科学省といたしまして、具体的な調査に基いて政策を打ち出していくということが重要と考えております。で、日本学生支援機構においてですね、先ほど回答の中にもございましたが、2年に1度「学生生活調査」というものを行っております。これは大学院生のみを対象としたものではないんですが、大学生から大学院生までも含めた学生生活調査ということで行っているところでございます。こちらはですね、家庭の収入状況でありますとか、学生のアルバイトの時間等をですね、調査をさせていただいているものでございます。こうした調査を活かしながら我々といたしましても政策を立案させていただいているところでございます。

【質疑応答】(全=全院協、文=文科省)

全:まず第1に、アカデミック・ポストが減っているとおっしゃっていて、プロジェクト単位の雇用を増やしていきたいとおっしゃっていたと思うのですが、それはプロジェクトが終わってしまえば解雇されてしまう以上、長期化しようがないのではないですか。根本的な解決策にはなりえないと思うのですが。

 第2に、大学院の学費についてですけれども、すでに上がってきているわけです。機会の均等とおっしゃっていますが、私たち大学院生はその8割以上がアルバイトをしなければ生きて行けない。さらに、学費を上げて、それで〔大学院生が大学等修学支援法の支援対象とならないというという点で〕大卒で就職されている人たちとの機会均等云々というのは理解できません。

 奨学金の返済減免義務についてですけれども、半額免除にせよ全額免除にせよ、分かるのは事後なので、根本的な解決にはなりえません。やはり〔大学等修学支援法の支援対象に〕大学院生が入っていないというのは論理的におかしいのではないでしょうか。この2点についてお答えください。

:まずアカデミック・ポストにつきましては、先ほどお答えした内容といたしましては、プロジェクト雇用を増やしていきたいということではなくてですね、現在働いている研究者のうち、例えば3年未満ですとか、1年未満で雇用されている方もかなり多いというデータがございますので、まずはそういった短い任期で雇用されている方たちについてはもう少し5年ですとか、5年以上というように雇用されるように、そうした制度を作っていきたいというようなことを検討しているところでございます。で、プロジェクト雇用を増やすということではなくてですね、引き続き基盤的経費ですとか、また特別研究員制度ですとか、事業を通じた安定的なポスト、テニュアトラック制度ですとかを活用した安定的なポストに繋がるような仕組みを大学の方に作っていくといったことも引き続き行っていきたいと考えています。1点目についてはこちらからは以上です。〔文科省側の回答者交替〕

:大学等修学支援法の支援対象に大学院生を加えるかどうかについては、まず今の時点では加えるといった議論はなされていないというのが現状となっております。ただ、制度の実施前ということでございますので、まずは制度を軌道に乗せる、着実に実施するということで準備を奨めさせていただいているところでございます。この新制度につきましては今後、効果検証を行うということになっておりまして、効果検証の要素としては低所得世帯の進学率の状況であったりとか、また支援に向けた学生の修学状況、就職や進学の状況などを踏まえて、うまく効果を発揮できているか検証を行う予定でございます。そういった検証の過程でですね、対象の拡大などについても議論の対象とされる可能性があるのではないかと今のところ考えているところでございます。以上でございます。

:今の点について、就職状況に鑑みて効果検証をするとおっしゃられていましたが、問題は、〔現状で〕アカデミック・ポストの就職状況自体が厳しいことにあります。そこを改善しないで、効果検証をしたら、当然効果は悪いということになるので、制度の拡大につながらないと思います。その論理はおかしいと思います。だから、あくまで効果検証をするというのであれば、それは我々がやっているような生活実態調査のようなものをしない限りは、進学できない人ばかりを増やして、大学院に入ってくださいと宣伝だけして、詐欺のようなものになりかねません。アカデミック・ポストがないにも関わらず、大学院生をこんなに増やしたっていうのは、一種の国家的な詐欺です。だから効果検証という言葉を軽々しく使ってほしくありません。それを使うのであったら、大学院生の実態にちゃんと迫ったうえでの、話にしてください。〔民間〕就職っていうのは、ある意味ではアカデミック・ポストから外れる行為になりかねない。産業との連携っていう話が先ほどありましたが、理系のマスターで就職のために修士号が必要というならわかります。しかし、ドクターまで進んだ人というのは、やはりそれなりの研究職を志しているわけです。この点についての理解が御省には足りていないのではないかと思います。今、御省の中で博士号を持っている方は何人いらっしゃいますか。〔挙手0人〕修士号を持っている方は。〔挙手3人〕就職と云いますが〔文科省は〕ドクターを取っていないではないですか。それでどうしてドクター政策が立てられるのですか。ドクターの上司がいない、ドクターの実態がわからない、研究の実態がわからない……それで企業に就職させてしまえば就職率が上がったことになる。それで効果検証をするというのは、そんなバカげた議論はありませんよ! そして、こちらの話でもありましたように、アルバイトしないと生活ができないという実態を国の恥だと考えてもらえないと今後禍根を残しますよ。なぜかと言うと、ある求人サイトで、日本研究のアカデミック・ポストがあったのですが、それがツバルなどの島国なんですよ。そういった国で月給80万円で雇用しているのです。そうしたら、日本の研究者は当然殺到しますよね。それから欧州のセルンという量子加速器の研究機関がありますが、そこに学振を取って、進学しようとした人がいました。そうしたら、欧州の最低賃金に〔学振が〕達していないから、法律に触れるため採用できないということがあったそうです。こうしたことから〔日本では〕大学院生を馬鹿にした状況があるのではないかということをまずきちんと認識していただきたい。

【参加者からの訴え】

Sさん(私立大学D1):中央大学の今、博士課程に在籍しておりますSと申します。私からは私の生活実態をお話しするという機会をいただきました。私の月収という面からいきますと、全体としては19万円程度で生活しております。しかしながら、その内訳をいいますとRAを月に8万円、残りの11万円は日本学生支援機構の第一種奨学金によるものです。単純計算といたしまして、半額以上奨学金に依存しているわけで、しかも今の〔制度の〕実態ではそれは借金に近いものですので、まあ泥船のような生活ですね……借金で浮かせたお金を生活費として食いつぶしています。RAについては、私の大学は比較的恵まれているほうで、週に20時間の勤務をさせていただいています。しかしながら、RAとしての業務を行っておりますので、週の20時間はそちらの業務ということになりますと、プラス・アルファで自分の研究時間を確保するということで、研究時間の確保自体も他の講義であったり、学部生の指導であったり、それらとの兼ね合いの中でかなり厳しい状況にあります。結果として、自分の生活時間をどんどん食いつぶしていっている状態です。そうしたなかで、こうした日本学生支援機構の奨学金を借り続け、400万円からなる返済額から逃れたいということになりますと、御回答でもあった業績優秀者の枠に入るしかないのですけれども、原則としてこれは3年でドクターを修了した者ということが大前提とされていることはご承知かと思います。しかしながら3年でドクター論文を出すというのは、分野によってかなり難易度が異なります。私の分野ですと平均で5年はかかるとされています。経済学の社会政策分野なのですが。これはちょうど昨日指導教授から言われたことなのですが、「僕はドクター論文を8年で書いた。君には同じクオリティのものを3年で書いてもらう」と。どういう計算をすればそれが成り立つのかと少し議論になったのですが、しかしながらそうした状況をクリアしていかないと、いきなり400万円の借金を背負った状態で、テニュアトラックに乗ったとしても、なかなかに厳しい条件の中で今後ポストについていかなければいけません。なおかつ今の状況ですとドクター論文を書いた1年後には、それを著書にしない限り、大学のHP上に公開されてしまうという事情があり、そうすると今の若手研究者のキャリアの積み方としてはドクター論文を提出する→1年以内に本として出版する→それを以て業績として就活をするというのが一般的になってきています。しかし、8年かかる研究を3年で完成させ、しかも1年以内に出版する、そのために出版社を見つけ、その資金も自分で100万円ほど調達するというのは私にはとても現実的とは思えません。それは皆様にも共感していただける点かと思います。八方ふさがりな状態で、それでも走り続けなければいけないという状況に日々おかれています。本当に……進むところまで来てしまっている、この先どうしたらよいのかと。私は私で頑張るが、誰が私のことを助けてくれるのかと。国の制度に則って努力しているのだから、何とか漕ぎつけることができるように、今後も支援を拡大していただけるよう切に願っております。時間がない中ですので、私からは以上とさせていただきます。

Mさん(外国大学M2):私は大学院の修士2年生で、専攻は数学です。修士課程は学費が無料ということもあり、フランスで入学し、この間4月に帰ってきました。それで帰国したところ日本の大学院生、若手研究者を取り巻く環境が思っていたよりも深刻だと感じました。経済的負担を、学生個人が負っているという国が本当に日本以外になかったということに気づいたからです。アジアの国々でもかなり珍しいと思います。数十万もの学費を毎年納めないと研究者になれない、大学院にすら進めない、こういったことをSNSで発信し始めたところ、あまり共感を得られませんでした。こうしたことを大学の先生や大学院生に話したのですが、比較的裕福な人たちが多いということもあってか――私は学部が慶應義塾大学だったのですが――、ここでも共感が得られなくて、孤軍奮闘ながら1人でできることをしようと思い、SNSで発信し始めて、それを見た大学院生が連絡をくれるようになり、Change Academiaという若手研究者の団体ができました。それは70人くらいおりまして、全院協さんはすごく昔からある団体なのですが、それとは別に今困っている大学院生が相談したり連帯できる場になっています。私はその代表を務めているので、その立場から話をさせていただければと思います。現在、大学院生が直面している問題というのは主に3つあって、貧困、差別、アカデミック・ハラスメント――これらが是正されなければ現状は変わらないと思います。貧困については、高額な学費や税金の問題がありますが、それにも況して根深いのは研究という労働に対して給与が支払われないという考え方だと思います。そういったこともあって、経済的な厳しさから博士課程進学者が20年前の半分以下の6000人代になっています。それとともに巷間囁かれているのが大学教員の研究時間の減少で、職務時間のうち、研究に割く時間が15年前に比べて3分の2程度になっているという実態が文科省の調査で分かっており、大学教員ですら時間内に研究以外の雑務に多くの時間を割くことを要求されている実態があります。だから大学院生はいなくなるわ、大学教員の研究時間はなくなるわで、じゃあ一体だれが研究するんだということで研究力の低下がささやかれているという実態が文科省の資料からも読み取れるかと思います。で、そのことは現象としては間違いないのですが、もっと大事なことは、私は考えでは、大学院生の給与未払いと大学教員の給与未払いとには共通した問題があるということです。まず、そもそも大学教員に給料が支払われることに異議を唱えるものはいません。それは教えるという行為に給料が支払われるのは当然だと多くの人々が思っているからです。しかし、大学の先生は研究をしているから給料を支払われているのだと考えている人はとても少ない。これは当事者である研究者や教員でさえ、この感はぬぐえません。なので研究は労働ではないという感覚が広く共有されている。この国では情報伝達の行為である教育には金銭的対価が生じて当然だというコンセンサスがありますが、情報生産の行為である研究には金銭的対価が生じて当然というコンセンサスはありません。なので多くの人々がこのことに気づいて、見直すべき時が来ているのではないかと考えます。研究力向上に向けた本質的な立て直しのためには、暗黙に共有されてきたこういったコンセンサスにこそ問題があるのだと多くの方たちが気づいて、ではなぜ研究が労働なのか、学術研究を公的に支援する際の正統性は何なのか、ということをまずは研究者、当事者が考えて、それから研究関係者に止まらず、国費については政策に関することだと思うので、一般市民とも議論を共有する機会が必要だと感じるに至りました。なのでこういった意見を、私もそうですが、団体として発信して一般市民の方たちとも共有する機会を設けるためシンポジウムとかの開催を考えております。あとは省庁――文部科学省をはじめとして関係省庁の皆様も問題意識はすごく深く共有されているということはわかっているので、それがなぜなかなか実行に結びつかないのかを色々と議論したりやり取りする機会が増えればよいなと思っております。以上です。