第75回全国代表者会議決議(2020年3月)

075全代 第2章 2019年度活動総括 第1節 2019年度大学院生の研究・生活実態に関するアンケート調査

2020.03.15

 全院協では、大学院生の生活の実態を把握し、客観的にその条件を分析するために、全国の大学院生を対象にした「大学院生の研究・生活実態に関するアンケート調査」を行っている。2004年から始まった本調査は2019年度で16回目を数え、一定の蓄積を重ねてきた。本節では、今年度のアンケート調査の経過を振り返り、その成果と今後の課題を検討する。

第1項 調査票の配布・回収・集計

 アンケートの調査項目と回収目標数は、2020年6月1日の第一回理事校会議での議論を踏まえて決定した。今年度の当初目標は、紙版のアンケート回収数が減少傾向でWeb版の相対的重要性が増していることなどを念頭に、前年度の実績702(紙版43、Web版659)を踏まえ、紙版100、Web版700合わせて800集めることを目標としていた。

 調査票については6月9日に紙版を関東事務局で印刷、掲示・配布用のアンケート周知ビラとともに各院協・自治会へ送付すると同時に、Web版を同日リリースした。紙版の最終締め切りを8月30日、Web版の締め切りを9月15日とし、その後の回収を進めた。Web版については全院協ブログ、Twitter等などの全院協が運用するインターネット媒体で宣伝するとともに、全国の学協会に向けてメールで協力依頼を行った。

 最終的な回収数はWeb版842件、紙版17件で合計859件となって目標は達成したものの、紙版の回収数が絶対数としても大幅に減少し、Web版の回収に依拠した回収実績となった。大学数は129校に上り昨年度を上回った。この背景には、学協会リストを更新・大幅に拡大し992の学協会に依頼を行ったことがある(2018年は756、2017年は470)。こうした取り組みの結果、60の学会から学会メーリスへの転送や学会ウェブサイトへの掲載などを通じて協力が得られた(昨年実績46学会)。

 回答者の属性としては、例年では文系が多い傾向が続いていたのに対し、理系の割合が増加している。この要因としては、文系の割合の押し上げ要因となっていた一橋大学からの紙版の回答数が減少したこと、学会を通じた協力では理系の院生が多くこれに包摂されていたことなどが考えられる。

 Web版の回答数が伸びたことの背景には、上述の学協会からの協力が得られたことがもっとも大きいが、Twitterを用いた宣伝による効果もあったものと推測される。今年は、一定程度の数の回答が寄せられた時点で、自由記述を抜粋してTwitter上で院生の声として紹介した。これらのツイートは院生のユーザーから一定の共感を集め、これが回答数の増加に寄与したものと思われる。

 紙版の回収数は大幅に下がることになった。これは、多くの院協・自治会の役員の担い手と全院協事務局との間でコミュニケーションが不足していたこと、紙版アンケートの集計などの負担が各院協の担当者に集中してしまうことなどから紙版が敬遠されたことが考えられる。紙版アンケートはそれぞれの院協や自治会において顔の見える関係を前提としており、そうした関係性の希薄化という側面も現れている恐れがある。いずれにせよ、今後の紙版アンケートの実施に当たっては、その前提となっていた全院協事務局と各院協・自治会役員との間のつながりを再建・強化すること、各大学での院協・自治会の活動を援助し活発化させることを同時に行うことが必要である。また「アンケートを集める」という活動それ自体が、院生同士のコミュニケーションを後押しし、上述のつながりや活動の活性化に寄与する要素があるとも考えられるため、今後も必要に応じて紙版アンケートを作成・配布・収集することが望ましい。

 今回のアンケートでは、学術振興会特別研究員制度への意見や要望が多数寄せられたこと、さまざまなハラスメントに苦しむ院生の声が多数寄せられたことなどが特に特徴として挙げられる。学術振興会特別研究員制度についての要望は、アンケートでの意見をもとに要請項目に追加することとした。

 また、2019年度のアンケートでは留学生の割合が昨年9.0%から6.9%へと減少した。英語版をはじめとして外国語版の作成は近年提起されて続けているが、今年も作成に至らなかった。一方で、新修学支援制度から留学生が排除されていることや、留学生向けの授業料が値上げされる懸念が生じていることなどから、今後留学生の声を集めることの重要性は増していくことになる。英語版をはじめ外国語版の作成を早期に実現することが望ましい。

第2項 アンケート調査項目

 アンケートの設問については、省庁・国会・政党への要請行動を行うにあたってその運動方針を策定する材料として役立てること、大学院生の状況を客観的に明らかにすることなどに留意して議論を行った。設問については大きな修正はなかったが、上述のTwitterでの投稿を念頭におき、自由記述欄にSNS等での公開の可否を確認する欄を新設した。

第3項 調査結果の分析

 調査結果は、基本的な属性である①課程、②学系、③所属する機関(設置形態)、④留学生などをもとにその生活実態を明らかにするためクロス分析を行い、アンケート報告書の各項目の執筆に役立てた。

第4項 報告書の作成と活用

 アンケート調査結果の速報として、アンケート調査結果の報告書完全版と合わせて概要版も作成した。これは、手に取りやすい形にして、マスコミをはじめより多くの人に本アンケートに関心を持っていただくためである。これらの概要版はマスコミに送付した。

 アンケート報告書(完全版)には、はじめに今年度の調査結果の特徴をまとめた後、それぞれの項目に関する調査結果をグラフと文章を交えて掲載した。内容は(1)アンケート回答者の基本属性、(2)収入と支出、(3)労働実態、(4)学費、(5)奨学金、(6)留学生の経済実態、(7)研究活動の実態、(8)就職活動の実態と項目立てし、それぞれ事務局メンバーが分担して作成した。参考資料として、自由記述欄に寄せられた回答全てと調査用紙を掲載した。

 完成した報告書は、例年通り各理事校に送付するとともに、マスコミ各社にも送付した。省庁・議員要請の資料として活用したほか、協力団体や参加企画でも配布を行った。また、マスコミからの取材や寄稿に関する資料としても活用した。報告書の結果の紹介記事がしんぶん赤旗に連載記事として掲載された。これは重要なデータをそのまま紹介する形式の記事で、ほぼそのまま全院協のデータが一般にも見られる形となった。

第5項 2020年度への提案

 昨年度から引き続き、Web版の回答数の増加という形で、早期に学協会への協力依頼を行うことの重要性が改めて確認された。多くの学会でメーリスへの転送やウェブサイトへの掲載という形で協力をいただいたことで、多様な大学から回答が寄せられた。なお、学会からのメール対応に当たっては、適切に事務局で分担しながら行うことが重要である。今年度はGmailのラベル機能を利用し、それぞれの学協会からどのような反応があったかラベルごとに分類し、蓄積できる対応とした。こうした機能は事務局で分担して対応するうえでも有用なので、今後も活用を勧めたい。また、昨年度からの引継ぎ事項としてもあった学協会以外の研究団体・市民団体などに協力を要請することについては取り組みを進められなかった。協力を依頼できそうな組織の拡大とリスト化は今後も進める必要がある。

 紙媒体の回答数の減少に対応し、これらの回収数を増加させるためには、すでに本節1項でも触れた通り、各大学での回収状況についてこまめに把握するとともに、どのように集めればよいか具体的な実践を共有し、それぞれの大学の状況に合わせて回収ができるようなノウハウの共有が非常に重要である。またこういったコミュニケーションを進めるなかで、全院協事務局と各院協・自治会との間でのつながりを維持・強化していくことが求められる。

 Twitterでの自由記述欄の公開は、回答数の増加という点でも、一般に広く院生の生活実態を広げることで院生支援に対する共感を広げるという点でも効果が見込める。Twitterと連携したツイートボットなどを利用し今後も継続することで、Twitterのフォロワー数の拡大にも寄与するものと思われる。

 すでにふれたが、留学生の声を集めることはますます重要性を増している。英語版の作成・翻訳に当たって一定予算を計上するなどして具体的にその方法を探ることが必要である。

 こうした全院協のアンケートの蓄積は、Change Academiaなど今年になって連携することが増えた院生の当事者団体からも一定の評価を得ていることなどからもわかるよう、今後ますます注目され、重要性が増すことが見込まれる。大学院生の研究・生活児たちを把握しその改善を訴えるうえでアンケートの存在はその基本となるため、こうした活動を継続させるためにその負担の軽減や業務の分担はいっそう重要であることを最後に指摘したい。